劇団★ポラリス リニューアルのご挨拶
ハイブリッドな音劇団「劇団★ポラリス」は、当時コロナ禍でクラシックの演奏家で構成されていた音楽事務所、
(株)カンパニーイーストの所属アーティストとスタッフが「日本人の義理人情」と「日本人の音楽と芸能」に
こだわった日本人にしかできないハイブリッドな音楽劇(ジャパニーズオペラ)を歌と演技と生演奏で上演する
というコンセプトで、2022年10月20日、小劇場の聖地と呼ばれる下北沢のザ・スズナリで旗揚しました。
旗揚げ公演は、昭和の天才総理大臣・田中角栄が浪曲の名人だったという史実に着目し、その半生を日本の伝統
芸能である浪曲と西洋のオペラを融合させた群像劇という形式で舞台化しました。タイトルは『THE SPEECH
(ザ・スピーチ)』。客演主演には、田中角栄が愛した浪曲『天保水滸伝』をお家芸とする浪曲師・玉川太福師匠
をお招きし、舞台を進行するナレーションには俳優の木村多江さんにご参加いただきました。本作はその後、東京
を中心に新潟、名古屋、埼玉などで上演を繰り返し、どの場所でも一定の好評を得ました。しかしその一方で
キャストのほとんどは劇団に所属する団員が少なく、客演やゲスト以外も集客の有無や会場キャパシティに関わらず
出演料前提のスポット参加の演奏家が中心であったため、キャストの稽古スケジュールを合わせることや、効率的な
上演計画を立てることも困難で、劇団それ自体が盛り上がるという機運にまでは至りませんでした。
そして旗揚げ公演から3年目にして劇団運営そのものもいよいよ赤信号となりました。
2024年9月下旬から10月に実施された『THE SPEECH』東京、名古屋公演上演後、このままの劇団運営体制では
舞台を重ねても劇団自体の発展は望めないということで、座長の吉武大地さん、座付演出家の吉田知明さんと私の
三人で、新しい劇団にリニューアルしようという話し合いがもたれました。その時に、座長から新しい提案があり
ました。それは劇団リニューアル公演と題し、入所したばかりの新人歌手の二人を主役に抜擢し、劇作家・つか
こうへい先生の不朽の名作『蒲田行進曲』のオペラ化に挑むというものでした。
銀幕のスターと大部屋俳優の奇妙な友情、その二人の間で揺れ動くヒロインの三角関係を描いた昭和を代表する人情
喜劇『蒲田行進曲』は、日本人の義理人情が色濃く、そして心に染みる歌謡曲の名曲の数々で構成された秀作で、
劇団のコンセプトにも相応しいものでした。この作品であれば、皆で心を1つにして新たな舞台に挑むことができる
と、私たちの心の中に新たな希望の光が見えてきました。ところが公演準備に入るその矢先に、ほぼ決定していた
ヒロイン役のオペラ歌手の出演辞退があり、そこに追い討ちをかけるように、あろうことか座長の突然の退団と、
次々と非常に苦しい出来事に見舞われ、劇団はたちまち窮地に追い込まれました。
一時はリニューアル公演の中止も私の頭を過りましたが、面白いもので、人という生き物は、逆境の時こそ、考え
られないような知恵や溢れる勇気が生まれ出るようです。いよいよ公演日まで残すところあと2ヶ月というところ
で、劇団員とスタッフが一丸となり、1週間足らずの弾丸ヒロインオーディションを敢行。見事、経験豊富な舞台
俳優と劇団初の女性団員を獲得するに至りました。まさに逆境が新たな才能との出会いをもたらしてくれたのです。
このように数々の困難と行き当たりバッタリ感が否めない劇団★ポラリスではありますが、今回のリニューアル公演
は、劇団にとって“新しいスタイル”を確立する大切な一歩です。抜擢された新人歌手の圧倒的な歌唱力、クラシック
音楽の素養を活かした生演奏、様々な経験を積んできた舞台俳優の気迫と躍動感、そして極めて日本人らしい“義理
人情”を核とした心温まる物語。これらを一体化させることで、クラシック音楽と演劇さらには日本人が育んだ昭和
の名曲の数々を融合させ、ハイブリッドな音楽劇の可能性をこれからもっと広げていきたい。今、そんな思いで
団員・スタッフ一同、全力で稽古に励んでいます。
そして今まで応援してくださったお客様にも、これから初めて足をお運びいただくお客様にも、どなた様にもご来場
いただけるよう、団員もスタッフ一も心から精進してまいります所存ですので、どうか皆様これからもお引き立ての
ほど何卒よろしくお願い申し上げます。
2025年2月吉日
「劇団★ポラリス」主宰
(株)カンパニーイースト
代表 堀越 信二